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バセドウ病・橋本病以外の甲状腺疾患
(その他のよくある甲状腺疾患)

バセドウ病・橋本病以外の甲状腺疾患

バセドウ病・橋本病以外の甲状腺疾患バセドウ病・橋本病・甲状腺悪性腫瘍以外のよくある甲状腺疾患である、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、潜在性甲状腺中毒症、潜在性甲状腺機能低下症、機能性甲状腺結節について説明します。
無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎は破壊性甲状腺炎を起こす代表的なものです。
破壊性甲状腺炎は、炎症などによって甲状腺細胞が破壊され、細胞内に蓄えられていた甲状腺ホルモンが漏出することで甲状腺ホルモンが高くなる病気です。バセドウ病も同様に甲状腺ホルモンが高くなる病気ですが、バセドウ病では甲状腺に結合する抗体が持続的に甲状腺を刺激する結果、甲状腺ホルモンが過剰となります。

無痛性甲状腺炎

無痛性甲状腺炎とは

無痛性甲状腺炎はその名の通り、痛みの無い甲状腺の炎症です。
無痛性甲状腺炎は慢性甲状腺炎 (橋本病)の経過中にみられることが多いですが、それ以外にも出産後や、アミオダロン、インターフェロン、免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブなど)などといった薬剤性によるものもあります。

無痛性甲状腺炎の症状

症状は甲状腺ホルモンが高くなるため、動悸、手の震え、体重減少、発汗過多などの症状がでます。無痛性甲状腺炎ではその名の如く、首の痛みを認めません。

無痛性甲状腺炎の検査

検査としては、症状や身体所見に加えて血液検査と甲状腺超音波検査を行います。血液検査では甲状腺ホルモン (FT3, FT4)の上昇、甲状腺刺激ホルモン (TSH)の低下を認めます。抗TSH受容体抗体(TRAb)はバセドウ病と異なり、通常陰性です。鑑別が難しい際には院長勤務している伊藤病院もしくは連携病院でアイソトープ検査(シンチグラフィ検査)を実施することもあります。甲状腺超音波検査では、バセドウ病は甲状腺内の血流が増加しますが、無痛性甲状腺炎では血流は乏しく、また、炎症部位に一致して新規の低エコー域を認めることが多いです。

無痛性甲状腺炎の治療

無痛性甲状腺炎の治療は動悸などの症状が強い際はβ遮断薬を使用することもあります。
無痛性甲状腺炎の経過としては2つに分けられます。

  1. 甲状腺ホルモンの上昇が自然に正常化するタイプ
  2. 甲状腺ホルモンの上昇が正常化後に低下症となるタイプ

①の自然に正常化するタイプが全体の40%、②の低下症となるタイプが全体の60%です。
②の低下症となるタイプの方が多く、このタイプの場合は内服薬のチラーヂンが必要となることがありますので定期的な経過観察が重要です。

なぜ無痛性甲状腺炎とバセドウ病の鑑別が重要なのでしょうか?

無痛性甲状腺炎では、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジールなど)は必要ありません。一方、バセドウ病では基本的には抗甲状腺薬の治療が必要です。
抗甲状腺薬では、稀ではありますが、副作用を呈することがあり、無顆粒球症など重篤な副作用もあります。
そのため、治療を開始する前にしっかり診断をつけることが重要です。
甲状腺専門医以外ですと、甲状腺ホルモン上昇のみで抗甲状腺薬開始されている方がいらっしゃいますので、「診断はあっているのだろうか、今の治療でよいのだろうか」などご相談ございましたら、お気軽に当院ご受診ください。

 

亜急性甲状腺炎

亜急性甲状腺炎とは

亜急性甲状腺炎も無痛性甲状腺炎と同様、代表的な破壊性甲状腺炎の疾患の1つです。
亜急性甲状腺炎はウイルス感染の関与が疑われていますが、未だに真の原因は不明です。

亜急性甲状腺炎の症状

典型的症状は首の痛みに加え、発熱を認めます。首の痛みは移動することもあります(creeping現象)。首以外にも顎、耳、歯に痛みが放散することもあるため、耳鼻科を受診されたり、歯医者を受診する方もいます。また、甲状腺ホルモンが高くなるため、動悸、手の震え、体重減少、発汗過多、だるさ(倦怠感)などの症状もでます。よくある経過では、咽頭炎と間違われて他院で治療されるも改善乏しいため当院受診し、亜急性甲状腺炎と診断されることがあります。発熱と首の痛みがある際に、甲状腺を触って痛みを認めると亜急性甲状腺炎を疑いますが、甲状腺を触っていないクリニックが多いため咽頭炎と診断される上記経過はよくあります。

亜急性甲状腺炎の検査

検査としては、症状や身体所見に加えて血液検査と甲状腺超音波検査を行います。血液検査では甲状腺ホルモン (FT3, FT4)の上昇、甲状腺刺激ホルモン (TSH)の低下を認めます。亜急性甲状腺炎では炎症を反映し、CRPが高値となります。抗TSH受容体抗体(TRAb)はバセドウ病と異なり、通常陰性です。甲状腺超音波検査では、痛みのある部位に一致した低エコー域を認め、まだら状あるいは地図状にみられます。

亜急性甲状腺炎の治療

亜急性甲状腺炎では、軽症の場合は痛み止めだけで軽快することもありますが、発熱や疼痛などの程度によってステロイド内服加療が必要となります。ステロイドの減量や中止が速すぎると約20%に再燃するとも言われており、注意が必要です。動悸などの症状が強い際はβ遮断薬を使用することもあります。また、亜急性甲状腺炎に対する抗甲状腺薬は無効で、抗菌薬(抗生剤)も無効です。
亜急性甲状腺炎では症状改善すると、甲状腺超音波検査の低エコー域に結節を合併していることもあるため、症状改善後に甲状腺超音波検査を実施する必要があります。
また、甲状腺機能低下症に陥る方が10%程度おりますので、定期的に経過観察し、必要であればチラーヂン内服開始が必要となります。

潜在性甲状腺中毒症

潜在性甲状腺中毒症とは

潜在性甲状腺中毒症は、FT4は基準値内ですが、TSHが低値を示す病態です。
下表のように経過によって一過性と持続性、原因によって外因性と内因性があります。

 

一過性

持続性

内因性

無痛性甲状腺炎

亜急性甲状腺炎

産後甲状腺炎

妊娠に伴う一過性甲状腺機能亢進症

バセドウ病

機能性甲状腺結節

非自己免疫性甲状腺機能亢進症

外因性

薬剤性

甲状腺ホルモン薬の過剰内服

潜在性甲状腺中毒症は無痛性甲状腺炎のことも多いため、約1ヶ月程度で再検査をします。
持続する場合は、バセドウ病の可能性なども考え精査していきます。

潜在性甲状腺中毒症の合併症

潜在性甲状腺中毒症が持続すると下記のような合併症が生じる可能性が報告されております。

  • 心房細動(不整脈)
  • 骨粗しょう症、骨折リスクの増加
  • 心不全、心血管イベントの増加

潜在性甲状腺中毒症の治療

治療としては、年齢、TSHの値、自覚症状、心臓病や骨粗しょう症などの併存症の有無によって治療が検討されます。

潜在性甲状腺機能低下症

潜在性甲状腺機能低下症とは

潜在性甲状腺機能低下症は、FT4は基準値内ですが、TSHが高値を示す病態です。

潜在性甲状腺機能低下症の原因

原因の約60~80%が慢性甲状腺炎(橋本病)と関連し、最も多い原因です。それ以外の原因は甲状腺亜全摘術後、放射性ヨウ素内用療法後(アイソトープ治療後)、バセドウ病の抗甲状腺薬治療後、薬剤性(アミオダロン、リチウム、インターフェロンなど)、ヨウ素過剰摂取などがあります。

潜在性甲状腺機能低下症の検査

潜在性甲状腺中毒症と同様、一過性か持続性かの判定が必要なため再度血液検査を実施します。

潜在性甲状腺機能低下症の合併症

潜在性甲状腺機能低下症は心臓病、心不全、動脈硬化性疾患のリスクと報告されております。

潜在性甲状腺機能低下症の治療

潜在性甲状腺機能低下症の治療は、年齢、TSHの値、自覚症状、心臓病や脂質異常症などの併存症の有無などによって治療が検討されます。
また、甲状腺自己抗体陽性やバセドウ病で放射線ヨウ素内用療法後は甲状腺機能低下症への移行のリスクが高くなるため、これらのことを踏まえて総合的に治療適応を判定します。

機能性甲状腺結節

機能性甲状腺結節とは

機能性甲状腺結節は、甲状腺結節が自律的に甲状腺ホルモンを分泌する病変です。Plummer病(プランマー病)や自律性機能性甲状腺結節(autonomously functioning thyroid nodule: AFTN)とも呼ばれます。
また、結節の数が1つの時は単結節性中毒性甲状腺腫(solitary toxic nodule: STN)、複数ある時は中毒性多結節性甲状腺腫(toxic multinodular goiter: TMNG)と呼ぶことがあります。

機能性甲状腺結節の症状

症状としては、バセドウ病と同様、次のような症状があらわれます。ただ、症状はバセドウ病より軽いことが多いです。また、甲状腺結節による症状も出現することがあります。

  • 心臓がドキドキする (動悸)
  • 汗をかきやすくなった
  • 暑さを感じやすくなった
  • 坂道や階段の上り下りで息切れしやすい
  • 疲れやすい
  • 食欲が増す
  • 食欲があるのに体重が減っていく
  • 下痢、便がやわらかい (軟便)
  • 手が震える (手指振戦)
  • 筋力が弱くなる
  • 髪の毛が抜けやすい
  • 足がむくむ
  • 月経の異常 (月経不順、無月経)
  • イライラしやすい
  • 骨がもろくなる(骨粗しょう症)
  • 首のしこり、首の腫れ
  • 首の違和感、のどの違和感、飲み込む時の違和感
  • 呼吸困難

機能性甲状腺結節の検査

検査としては、まず、症状や身体所見に加えて血液検査と甲状腺超音波検査を行います。
血液検査では、甲状腺ホルモン (FT3, FT4)の上昇、甲状腺刺激ホルモン (TSH)の低下を認めます。抗TSH受容体抗体(TRAb)はバセドウ病と異なり、通常陰性ですが、バセドウ病に機能性甲状腺結節を合併するMarine-Lenhart症候群の時はTRAb陽性となります。
甲状腺超音波検査では、甲状腺結節を認めます。機能性甲状腺結節が疑わしければ、シンチグラフィ(アイソトープ検査)を実施します。

機能性甲状腺結節の治療

治療としては、抗甲状腺薬治療、アイソトープ治療、手術があります。年齢、甲状腺結節の状態、基礎疾患の有無などを考慮し、総合的に治療法を検討します。

 

抗甲状腺薬治療

アイソトープ治療

手術

メリット

外来で実施可能

外来で実施可能

・甲状腺機能を速やかに改善できる
・確実に結節を除去できる

デメリット

・根治治療ではないため一生涯内服が必要
・抗甲状腺薬の副作用に注意が必要

・甲状腺機能の改善に時間がかかる
・結節の縮小効果が一定していない
・甲状腺機能低下症になることがある

・入院が必要で麻酔や手術による合併症が起こることがある
・傷が残る
・甲状腺機能低下症になることがある