- 妊娠糖尿病とは
- 原因
- 症状
- 診断
- 妊娠糖尿病が引き起こす合併症
- 妊娠糖尿病になりやすい方の特徴
- 自己血糖測定
- 妊娠中の目標血糖値
- 妊娠糖尿病の治療法
- 妊娠糖尿病時に陥りやすい低血糖
- 妊娠糖尿病のママは産後の経過も要注意
妊娠糖尿病とは
妊娠中の糖代謝異常には3種類あり、①妊娠糖尿病、②糖尿病合併妊娠、③妊娠中の明らかな糖尿病があります。妊娠糖尿病とは、「妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病に至っていない耐糖能異常」のことです。糖尿病合併妊娠は既に糖尿病と診断されている方が妊娠した状態です。妊娠中の明らかな糖尿病は妊娠中にはじめて診断された糖尿病で妊娠前に発見されていなかっただけで妊娠前から糖尿病だった方も含まれます。
妊娠糖尿病の原因
妊娠中は胎盤からのホルモンなどの影響によってインスリン抵抗性が増加します。健康な方はインスリン分泌が増加することで血糖値が正常に保たれます。しかし、このインスリン分泌増加が十分でないと血糖値が高くなり妊娠糖尿病を発症します。妊娠糖尿病は、出産後に胎盤が外れるとインスリン抵抗性も改善し、通常の状態に改善することが一般的です。
妊娠糖尿病の症状
妊娠糖尿病は自覚症状が乏しく、妊婦定期健診で発見されることが多い疾患です。妊娠糖尿病によってママや赤ちゃんに重大な合併症を引き起こすリスクが上昇します。そのため、早期発見することで血糖値を適切にコントロールしていくことが大切です。
妊娠糖尿病の診断
妊娠糖尿病の診断
血液検査で血糖値を調べる検査を行います。スクリーニング検査として妊娠初期に普通に
食事をした状態で採血を行い、血糖値が95 mg/dL以上でHbA1c < 6.5%であれば75gブ
ドウ糖負荷試験を行います。ただ、妊娠糖尿病のリスクが高いと判断した場合は早期診断
のため、スクリーニング検査を実施せずに初めから75gブドウ糖負荷試験を行うことがあ
ります。
以下の基準に一つでも当てはまる場合は妊娠糖尿病の診断となります。
- 空腹時血糖値 ≧ 92 mg/dl
- 1時間値 ≧ 180 mg/dl
- 2時間値 ≧ 153 mg/dl
妊娠中の明らかな糖尿病の診断
妊娠中の明らかな糖尿病の診断は下記になります。
以下の基準に一つでも当てはまる場合は妊娠中の明らかな糖尿病の診断となります。
- 空腹時血糖値 ≧ 126 mg/dl
- HbA1c ≧ 6.5%
なお、随時血糖 ≧ 200 mg/dl、もしくは75gブドウ糖負荷試験の2時間値 ≧ 200 mg/dlの場合には妊娠中の明らかな糖尿病の可能性を考慮し、上記診断基準を満たすか確認します。妊娠中の明らかな糖尿病は妊娠前に見逃されていた糖尿病、妊娠中の糖代謝の変化に影響を受けた糖代謝異常や、稀ですが妊娠中に発症した1型糖尿病が含まれます。あくまで妊娠中の基準のため、出産後に改めて糖尿病でないか検査を受けることが必要です。
妊娠糖尿病が引き起こす合併症
妊娠糖尿病によってママや赤ちゃんに次のような合併症を起こすことがあります。
母体に起こる合併症
- 流産・早産
- 羊水過多症
- 妊娠高血圧症候群
- 帝王切開率の増加
- 膀胱炎・腎盂腎炎
赤ちゃんに起こる合併症
- 子宮内胎児死亡
- 巨大児
- 肩甲難産 (赤ちゃんの肩がひっかかる難産)
- 新生児呼吸障害
- 新生児低血糖
- 高ビリルビン血症
など
妊娠糖尿病になりやすい方の特徴
妊娠糖尿病は誰でも発症する可能性がありますが、次の特徴に1つでもあてはまる方は注意が必要です。
- 35歳以上
- 妊娠前の肥満 (BMI 25以上)
- 妊娠糖尿病になったことがある方
- 巨大児 (出生体重 4000 g以上)の出産歴がある方
- 血縁の家族 (特に両親や祖父母)が糖尿病を患っている
- 多嚢胞性卵巣症候群の方
- 多胎妊娠の方 (2人以上の赤ちゃんを同時に妊娠すること)
自己血糖測定
妊娠糖尿病、妊娠中の明らかな糖尿病、糖尿病合併妊娠は高血糖によって母体や赤ちゃんに合併症を起こすことがあるため血糖値をしっかりコントロールすることが重要です。そのためには、ご自身で血糖値を測定し(自己血糖測定)、治療することが大切です。
自己血糖測定によって、良好な状態を維持できているか確かめることができ、また、低血糖も評価できるため安全に血糖コントロールすることができるようになります。
血糖値は食事、運動などの影響で1日の中で変動するため複数回測定する必要があります。
1日の一般的な検査回数は1日4回を基本に測定しますが、測定頻度は患者様の状態などによって変わります。
妊娠中の目標血糖値
母体や赤ちゃんへの合併症リスクを最小限に抑えるため、低血糖を避けながら血糖値をできるだけ正常に近い状態に保つ必要があります。血糖値だけでなく、HbA1cやGA (グリコアルブミン)の結果も血糖コントロール指標として補助的に使用されます。
日本糖尿病学会では、妊娠中の目標血糖値を下記のように定めています。
- 空腹時血糖値 < 95 mg/dL
- 食後2時間値 < 120 mg/dL (または食後1時間値 < 140 mg/dL)
- HbA1c 6.0~6.5%未満
ただし、この目標値は絶対的なものではなく患者様の状態にあわせて目標値を設定します。また、妊娠中は血糖値のコントロールを優先させ、HbA1c、GAは補助的目標として総合的に判断します。
妊娠糖尿病の治療法
食事療法
妊娠糖尿病は軽症の場合は食事療法のみでも血糖値の適切なコントロールが可能です。妊娠中の必要なエネルギー量は標準体重×30 kcalに下記の妊娠各時期の付加量を加えます。妊娠前が肥満 (BMI ≧ 25 kg/m2)の場合はエネルギーの付加は行いません。
妊娠各時期の付加量
- 妊娠初期: +50 kcal
- 妊娠中期: +250 kcal
- 妊娠後期: +450 kcal
- 授乳期: +350 kcal
分割食について
良好な血糖管理のためには、食後の血糖上昇を抑える必要があります。規則正しい食生活を実施しても血糖コントロールが不十分な場合に、1回の食事の炭水化物量を抑え、間食をする分割食が検討されます。1日のエネルギー量内で朝食、間食、昼食、間食、夕食、間食のように6回に分けます。
運動療法
妊娠中の運動は血糖コントロールの改善や適切な体重管理につながる可能性がありますが、患者様の状態によっては運動を勧められない状態もあるため主治医に相談の上で内容を決めるようにしてください。運動療法については下記内容に注意しましょう。
- 妊娠中に行う運動としては有酸素運動で楽しい運動が勧められます。ウォーキング、マタニティビクスやマタニティヨガなどがあります。
- 1回の運動時間は60分以内を週2-3回で自覚的にやや楽な運動が勧められます。
- 運動するタイミングは食後1~2時間の間に行うのが理想的で、時間帯は子宮収縮出現頻度が少ない午前10時から午後2時頃が望ましいです。
- インスリンを使用している方は低血糖に注意し、低血糖症状を感じたらブドウ糖を摂取るなど適切な対応ができるようにしましょう
- 気分が悪くなったら運動を中止しましょう。また、水分補給もしっかりしましょう。
薬物療法
食事療法で十分な効果が得られない場合にインスリン注射を使った治療をします。インスリンは赤ちゃんに悪影響を及ぼすことはないため、ご安心ください。インスリン以外の糖尿病の内服薬は本邦では妊娠中の安全性は確立されておりません。
インスリンは自己注射が必要ですが、血糖値を安全にかつ適切にコントロールできる治療法です。当院は糖尿病専門医が診療しているクリニックであり、専門性の高い治療を行っています。妊娠糖尿病に対するインスリン治療もおこなっておりますので安心してご相談ください。
妊娠糖尿病時に陥りやすい低血糖
低血糖の症状
低血糖症状は通常、血糖値が70 mg/dL未満の時に生じますが、症状がでにくい方もいます。症状としては交感神経症状と中枢神経症状の2つに分類されます。
交感神経症状は次のようなものがあります
- 汗をかく
- 動悸がする (心臓がどきどきする)
- 手足が震える
など
中枢神経症状は次のようなものがあります
- 目がかすむ
- 異常な空腹感
- 激しい眠気
- 疲労感
- 意識喪失
など
低血糖への対応法
初期症状ではご自身で何とか対応できますが、低血糖症状が進行してしまうとご自身で対応することが困難となります。少しでもおかしいなと感じたら約10gのブドウ糖か砂糖20 gを摂取しましょう。ブドウ糖がない際は自販機で同程度のブドウ糖が含まれるジュースを買って飲んでも構いません。
妊娠糖尿病のママは産後の経過も要注意
妊娠糖尿病と診断された方は、将来糖尿病を発症するリスクが7~10倍といわれております。日本の報告では、出産後約5年で約10%が糖尿病を発症した報告もあります。そのため、出産後6~12週に75g経口ブドウ糖負荷試験を実施し、ブドウ糖負荷試験の結果と肥満の有無によって治療や経過観察することが重要となります。また、糖尿病以外にもメタボリックシンドロームを発症しやすいことも報告されており、糖尿病だけでなく、脂質異常症や高血圧、体重も経過観察することが大切です。